百万遍ハイツには、年月を重ねたものだけにある味があった。
時間によって磨かれた風合い。立ち姿に深みがある。
これは、新築では再現しきれないものだろう。
だからその良さを残し、建て替えではなく
「アップデートする」という道を選ぶことにした。
今回、設計を担当した建築士の内田さんは、
実は学生時代から百万遍ハイツと縁のある人物だ。
内田さんは学生の頃、河原町三条にあるVOXビル内の
「MEDIA SHOP」という書店でアルバイトをしていた。
アートやデザイン、建築関係の書籍を取り扱っており、
京都で名の通った建築家が足を運ぶ店だという。
そのVOXビルを運営している株式会社鹿六が、
百万遍ハイツも所有していた。
当時、百万遍ハイツの一階には
「OFF SIDE」というダイニングバーがあり、
VOXビルでのイベント後、打ち上げのために
内田さんは「OFF SIDE」を訪れていたという。
学生時代から縁のあった建物に、設計者として戻ってきた内田さん。
今回の改修で、かつて「OFF SIDE」があった場所は
入居者が利用できるコミュニティカフェにした。
風合いのいい家具や植物を置き、
落着きのあるカフェのような空間になる予定だ。
そして、その奥の部屋には内田さんが事務所を構えるそうだ。
ときどきはコミュニティカフェに顔を出しているかもしれない。
入居者が何かに困ったとき、声をかけられる存在……
そんな役割の人、と言えばいいだろうか。
入居する人には、気負わず、気軽に話しかけてもらえたらと思う。
ちょうどいい距離感を探りながらやっていきたい、
と内田さんは話す。
付かず、離れず、話しかけたら応えてくれる人。
明確なマニュアルはあえて用意せず、
やりながら探っていくつもりだそうだ。
共用部の使い方も同じで、何をするか、何をしないかは、
入居者の反応を見ながら臨機応変に考えていきたいという。
コミュニティカフェには本棚を置く予定だが、
「いつか退去する人が本を一冊置いていく、
ということがあってもいいですよね」と内田さんは笑っていた。
(もちろん、何でもかんでも置いていっちゃだめですよ!)


