この物件を見に行く前に、家主さんにお会いした。
すると家主さんが、あれこれ話してくれる。
そこで生まれ育ったそうだから、思い出話は尽きない。
── みかんは母がタネをほったら(捨てたら)生えたんや。
── 母がお茶やってたからお茶室があって。
── 昔は母がお茶花をきれいに植えてはったわ……
お茶花というのは、茶室の床に飾る花のこと。
華美な花は使わず、自然の美しさを表現するものである。
「花は野にあるように」
これは千利休の教えだという。
所謂、利休七則のひとつだ。
決して花を自然そのままの形で活けるという意味ではなく、
野に咲く姿を、わずか一輪の花でも表現するように、
本質を見極めて、という意味らしいから、お茶の世界は奥深い。
ともかく、そんなお茶花を植え、
季節に合わせて床に飾っていたという。
きっと、静かな美を大切にする人が暮らしていたのだろう。
そして、鳴滝の物件へ撮影に行った。
少し高台の、町の喧騒から少し離れた静かな場所にある。
とはいえ、市内中心部までは車で30分ほど。
ちょうどいい距離感かもしれない。
その家は斜面に建っている。
手前が茶室のある離れ、
そのさらに奥に段々畑のような庭。
母屋2階からは嵯峨嵐山の方角を見渡せて、
鳥と風のBGMも相まって気持ちがいい。
庭の草木も、建物の佇まいも、
どこか無理がなくて、自然体で落ち着く。
自然とともに暮らすとは、きっとこういうことだ。
家主さんの思い出の詰まった家。
どうか、これからも愛され続けてほしい。